「石原のささら獅子舞」は、3頭の獅子たちが日本古来の楽器「ささら」の音に合わせて力強く舞い踊る、川越の民俗芸能のひとつです。
今回はそのレクチャー講演会に参加してきました。
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What is Kawagoe's folk art “Ishiwara no Sasara Shishimai?” It’s a spring tradition that has carried on into the next generation!!
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川越の民俗芸能「石原のささら獅子舞」とは
川越市石原町の観音寺などで行われる「石原(いしわら/いしはら)のささら獅子舞」。
その文化的価値はとても高く、埼玉県の無形民俗文化財に指定されているほか、『川越歴史新書 3.川越歴史随筆』(岡村一郎 川越地方史研究会)でも次のように高く評価されています。
川越の年中行事のなかで伝統が古いばかりでなく、民俗芸能として非常に優秀なものに石原のささら獅子舞がある。これはたしかに鼻を高くして誇るだけの値うちがあろう。
引用:『川越歴史新書 3.川越歴史随筆』6. 石原のささら獅子舞 冒頭
ささら獅子舞の祭事には、毎年4月の第3土・日曜日に開催する「本祭り」と、日曜日のみ行われる「陰祭り」の2種類があり、それぞれ隔年で交互に開催されています。
2019年は陰祭りの年でした。
日本の伝統楽器「ささら」
「石原のささら獅子舞」の「ささら(簓)」は、日本に古来から伝わる楽器の名前です。
36に割られた漆塗りの竹を、12の刻みが付いた「ささら子」という棒でこすって音を出します。
その音色はスペインの打楽器ギロに近いです。
【参考】ギロ
石原のささら獅子舞は全12シーン構成
舞の曲目は12か月・12支の考えに基づき、全12シーンで構成(十二切)されています。それぞれのシーンにはテーマがあり、全編を通して一続きのストーリーになっているのが特徴です。
物語の展開に合わせて舞の様相がコロコロと変化していくので、ずっと見ていても飽きません。
見どころは第9場の「雌獅子隠し」~第10場の「雌獅子争い」です。
姿を隠してしまった雌獅子をめぐり、それまで戯れるように優雅な舞を見せていた2頭の雄獅子が激しい争いを始めます。
そして、何度かの乱取りを繰り返した後に、山の神が登場。雄獅子たちは山の神に争いの無意味さを諭され、仲直りをします。
すると、それまで影を潜めていた雌獅子が登場。3匹仲良く大団円へ向かいます。
石原のささら獅子舞の歴史
1603年(慶長12年)3月に行われた観音祭で、災難除けと平和祈願の想いを込めてささら獅子舞を演じたのが、石原のささら獅子舞の起源です。
当時は祭事の度に川越城内でも演舞していたといわれています。
ところが、1634年(寛永11年)。時の城主・酒井忠勝が若狭小浜城へ国替(くにがえ/領地を移し替えること。つまり、お引越し)した年を境に、石原町でささら獅子舞が見られなくなってしまいました。
なぜなら、獅子舞をこよなく愛していた忠勝が、若狭小浜城へ移動する際、ささら獅子舞の雌雄2頭の獅子頭と舞人も一緒に連れて行ってしまったからです。
それ以降75年にわたり、石原のささら獅子舞の歴史はストップしてしまいました。
しかし、1709年(宝永6年)、高沢の井上家から獅子頭が奉納されたことをきっかけに再興。このときの獅子舞の行列は、総勢50余名にも上ったそうです。
参考文献:「川越市子ども民俗芸能大会解説書」川越市教育委員会
石原のささら獅子舞から雲浜獅子(福井県小浜市)への派生
川越城主・酒井忠勝の国替先だった福井県小浜市にも、雲浜獅子(うんぴんじし)という獅子舞文化があります。これは忠勝が国替をした際、小浜(当時は若狭)の人々に広めたものです。
忠勝が川越から引き連れてきた演者たちは「関東組」と呼ばれ、準士族の身分を与えられました。彼らは主に城中で行われる祝事でのみ演舞が許され、祇園祭礼では廣峰(ひろみね)神社への奉納も行っていたそうです。
現在、雲浜獅子は、忠勝を祀る小浜神社の例大祭「お城まつり」(5月2日、3日)で演じらています。
参考文献:「目からウロコの民俗学」橋本裕之編著、若狭おばま観光協会公式サイト
大盛り上がり!石原のささら獅子舞 レクチャー公演
2019年2月11日、川越市の公共施設「ウェスタ川越」で、石原のささら獅子舞のレクチャー公演が行われました。
開場前の様子。公演30分前には既に長い行列ができていました。
同公演の前売り券は前年の12月頃に販売していたのですが、とても人気だったようで、あっという間に売り切れてしまったそうです。
私も当日の公演1時間前に会場へ行き、当日券を購入しました。
会場はすぐ満員に。
立ち見のお客さんも大勢いました。
公演は石原のささら獅子舞の実演からスタート
ささら獅子舞の説明動画が再生された後、ほら貝の音と共にささら獅子舞保存会の方たちが入場。会場内が一瞬にして色めき立ちます。
さっそく、石原のささら獅子舞の演舞がスタート。観客たちは動画や写真を撮ったり、メモ帳を取りだしたりと大忙しでした。
ど迫力の舞に、会場内のボルテージが一気に高まります!
天狗役の少年も登場。可愛いながらもキレのある動きに、お客さんたちは大喜びです。
会場内には石原のささら獅子舞にまつわるアイテムも展示
会場の後方には、小袖などが展示されていました。いずれもかなり貴重なもので、上の写真の小袖(恐らく真岡木綿)・伊賀袴(双子縞)は明治20年代に制作されたものだそうです。
こちらは「ささらっ子」の女の子が着る小袖。
立体的な刺繍が特長で、大層高価な逸品なのだそう。
もう2度と作れないという力強い刺繍が施された古代肩絹。山の神の衣装です。刺繍のテーマは”牡丹に狂う唐獅子”。