川越の市街地には、かつて遊郭街だったエリアがあります。
喜多院の裏にある元遊郭街と、蔵造りの町の先にある元花街「弁天横町」。その今と昔に迫る、ちょっとマニアックな記事です。
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喜多院裏に見る赤線地帯の妓楼建築
1958年3月以前。当時、「赤線地帯」と呼ばれていた地域には、売春目的の特殊飲食店が集まっており、警察公認の売春が行われていました。
「赤線」という名前は、警察がこのようなエリアを地図上に印すとき、赤い線で囲んでいたことに由来しています。
東京都墨田区の「玉の井」や「鳩の街」、江東区の洲崎などは有名な赤線地帯です。昭和時代の小説をよく読む方には、馴染みのある地名かもしれません。
当時、埼玉県は公娼を認めない「廃娼県」でした。しかし実際は、大宮や熊谷に「旅館」「料理屋」という建前で遊郭が存在していたと言われています。
それは川越も例外ではありません。喜多院の裏手(西側)には、「乙種飲食店(達磨屋)」という名目で、実質遊郭として機能していた建物が複数あったのです。
1958年4月1日の「売春防止法」の施行により、赤線の文化は廃れました。かつて赤線と呼ばれていたエリアでは、現在そのような行為は一切行われていません。
赤線と青線の違い
赤線が警察公認の売春地帯であるのに対し、青線は非公認・非合法の売春地域です。
和洋御食事処 栄
喜多院の西側。現在は閑静な住宅街です。
かつて「(乙種料理店数)二○軒、娼妓八一名」を抱えていた赤線地帯とは思えません。
(引用:全国女性街ガイド)
まずは1軒目、大正13年築の元乙種料理店へ。現在は人気飲食店「和洋御食事処 栄」になっています。
とてもお洒落な古民家風レストランです。店内には、有名芸能人のサインも多数飾られています。
2階部分の手すりのステンドグラスは当時のまま。
川越市の「都市景観重要建築物」に登録されています。
通常、こういったエリアは街の裏歴史として包み隠されるものです。しかし、川越市では歴史的建築物として再利用しています。
和洋御食事処 栄のおすすめは洋風ランチ。
誰もが好きな洋風メニューをお手頃価格で食べられます。
店舗情報
旅館市むら
2軒目は「旅館市むら」。どストレートな転業旅館です。この建物が最も妓楼らしさを残していました。
こちらも川越市の「都市景観重要建築物」です。
建物の手入れはしっかりと行き届いています。
建物の裏手にまわると……、やっぱりありました!旅館の裏入り口です。この「いかにも」な感じがたまりません。
裏入り口がある小道は、ごく普通の住宅街に繋がっています。
てんぬま
3軒目はこれまた立派な古民家です。とても元妓楼とは思えません。
現在は「てんぬま」という天ぷら屋さんになっています。私のお気に入りのお店です。
お店の裏手には、またしても小道が残っていました。
てんぬまの入り口。高級感のある雰囲気ですが、料理は比較的リーズナブルでお得です。
限定20食のランチセット。なんとこれでたったの1,100円!天ぷらはアツアツサクサク。
何を食べても美味しいので、夫婦でよく利用しています。
店舗情報
てんぬまのお隣にある重厚な古民家。かつて旅館だったようです。
看板などは取り外されていますが、玄関には「白舟」と書かれた外灯がついていました。
再開発が進む“弁天横町”
小江戸川越の人気観光エリア「蔵造りの町」を抜けた先にある、小さな路地「弁天横町」。戦前から残る古い花街です。
クラブ 浮世、ロートレック、小料理 悦、パブ 河……。
戦後は芸者衆で賑わう華やかな路地だったそうです。しかし、今となっては見る影もありません。
一歩足を踏み入れると広がる廃墟感……。戦後に廃れてからそのまま放置されているかのような荒みっぷりです。
喜多院裏の赤線地帯が綺麗に修繕・保全されているのに対し、こちらは荒れ放題でした。
ロートレックの看板。入口の看板に書かれていた「クラブ 浮世、ロートレック、小料理 悦、パブ 河」のうちの1つですね。
店舗の看板が残っていたのは、このお店だけでした。
この辺りは花街の元芸者置屋(芸者さんたちの住居)「二葉」という建物だったそうです。
奥の白い建物は「小料理 悦」。元芸者だった女将が営んでいたお店です。今は看板が取り外されています。
「小料理 悦」のお向かいの空き地。草ぼうぼうです。
大きな七軒長屋。この建物は改築され、今も活用されています。
それはそうと、妓楼っぽいにおいのする丸窓とトンネル路地がたまりません。
民家の敷地へと続くトンネル路地。花街時代は、芸者やそのお客さんたちがこの路地を行き来していたものと思われます。
現在、この長屋にはテキスタイル作家・山本さとこさんの工房「GALLERYなんとうり」とデザインオフィス「晴間」、そしてその間に「Gallery,Cafe, and Bar 二軒堂」が入居しています。
二軒堂の店内。とてもオシャレな雰囲気のお店です。
歴史的建築物が今もなお生きている川越の元遊郭街
かつて有名な赤線地帯だった、東京都内の玉の井と鳩の街。このエリアにある建物は、売春防止法の施行後に大規模な補修や改修が行われました。
現在では、当時の面影が(少なくとも表側には)ほとんど残っていません。
喜多院の裏手のエリアのように、遊郭街だった名残を「隠すべき裏歴史」として廃れさせず、当時の貴重な建築物として保護・再利用している例は、全国的にも珍しいとされています。
江戸時代の名残が見られる、時代劇のような街並みが有名な小江戸川越。
その裏側には、大正・昭和時代の遺産がたくさん眠っています。
喜多院裏も弁天横町も、日中帯は常に地元民が行き来しているので、決して危険な場所ではありません。
ちょっとアンダーグラウンドな場所を散策してみたい方は、ぜひ一度足を運んでみてくださいね。